SACHiEl (10/13) 


 その日からワイドショーは「女子中学生、謎の集団死!」と題された、ある意味馬鹿げた内容を放送し続けていた。現在の所、何人かの少女達が同じ学校だと言う事は判って来たが、全体をつなげる物は見つけられず、死亡した少女達の同級生のインタビューや経歴等がどんどん公開されていった。何故いつも死者はプライバシーを根掘り葉掘りほじくられるのだろう?
 そして俺はそのテレビに釘付けだった。興味本意では無く、幸恵の事が気掛かりだったからだ。今の俺には彼女の情報を手に入れるには、こうしてじりじりとテレビや週刊誌を見るしか手段は無かった。
 死亡した少女達は俺の予想通り90人だった。マジェスティック12もこの中に含まれているのか、それとも入れ混ざっているのか。だとしたら幸恵が紛れている可能性が無い事も無い。俺は居ても立ってもいられない時間を過ごした。しかし、この中に幸恵がいない事は思ったよりも早く判った。全員の名前が公開されたからだ。
 やがて警察は90人の少女の共通点を発見した。それは彼女らの持ち物の中にあった不思議な記号のバッヂだった。90という数字の右上に小さく書かれた2という数字。それは90の二乗という事なのだろうか? 8100という数字を表わしているのか? 流石にそこまでは誰も判らなかった。相変わらずテレビのコメンテーター達は本当なのか嘘なのか判らないような発言を繰り返していた。
 それを聞きながら、俺は何げに開いた本のフレーズを見つめていた。
『神は、罪を犯した天使達を容赦せず、暗闇という縄で縛って地獄に引き渡し、裁きのために閉じこめられました(「ペトロの手紙2」第2章4節)』

 人の噂も75日と言われるが、ゴシップ好きの世間を賑わす話題は尽きる事無く、この事件もいつの間にかみんなの関心から消えて行った。結局は何も解決せず時間だけが過ぎ、俺はぼんやりと毎日を送っていた。
 ある日、刑事が二人尋ねて来た。
「何の用でしょうか?」
「実はあの中学生集団死の何人かの部屋から貴方の写真が出て来ましてね…。ちょっとお話をお聞かせ頂きたく、署までご同行願えませんか?」
「え? どう言う事ですか?」
「まあ、此処じゃあ何なんで…」
 さっぱり意味が変わらなかったが逃げるような事もしていないので、潔白を証明するべく俺は警察へと向かった。生まれて初めて乗ったパトカーは思ったよりも狭かった。勿論、手錠はされていない。
 取調室はテレビドラマで見るものとなんら変わり無く、少々期待外れだった。
 刑事が見せてくれた少女達の部屋から出て来たという俺の写真は、入院中の俺の写真で明らかに遠目から写された盗撮っぽいものだった。
「な、なんですか、これは? 僕の方が聞きたいですよ」
「この写真に写っている建物の外観から、此処がH大病院と判明してやっと貴方に辿り着いた訳ですが、当局の見解としても貴方自身は事件に関係無いと見ております」
「それは良かった。僕は無罪なんですね?」
「ええ。ただこの写真を撮られた事を知っているかの確認をしたかっただけなんです」
「今日初めて知りましたよ。逆に僕の方からこの写真を撮った人間を探して欲しい位です」
「ごもっともな意見です。その辺は私達の方で現在捜査中です。失礼ですが、この写真の時期、ほら、此処に写っている壁飾りで病院関係者からこの写された時期も判明して、貴方のアリバイもしっかりと取れています。随分長い事入院されていた事も…」
「いえ。構いません」
「そして、貴方とこの少女達の接点が無い事も調査済みです」
「それは良かった」
「ただ、何故この少女達が貴方の写真を持っていたのか。しかも写真というよりは、コレは写真をカラーコピーした物ですからね。そこが判らないんですよ」
「そうですね」
「こう言っては失礼だが、芸能人や有名人でも無い一般人の貴方の写真をどうして少女達は所持していたのか? 結論が判明した時には改めてご連絡致しますが…」
 警察としては単純な確認作業だったみたいだ。俺は丁重に扱われた。
 初めて訪れた警察に俺は興奮気味だった。

 それから数日後、幸恵が俺の前に現われた。
 幸恵は入院していた病院に問い合わせて俺の電話番号を調べたらしい。
 夕暮れの病院の屋上。俺と幸恵の他には誰もいない。洗濯後の干されているシーツが沢山なびいていた。幸恵はいつもの制服姿だった。そしていつもの微笑みで俺に話し掛けて来た。
「元気だった?」
「突然いなくなるから、とても心配したよ」
「…ごめんなさい」
「これ…」
 俺は幸恵のカバンを差し出した。「置いて行っただろう。あずかっていたよ」
「有難う」
「ごめん。中を見てしまった」
「うん。気にしないで」
「でも、一体、どういう事なんだ?」
「………」
「カバンの中のノートに書かれているクレイジーってなんなんだ? もしかしたら世間を賑わせたあの事件と何か関係があるのか? あのバッヂも何か意味があるのか?」
「………」
「黙っていないで答えてくれ。俺はずっとずっと…君だけが心配だったんだ」
「長くなるけど、聞いてくれる?」
「ああ。聞くよ。全てを教えてくれ。何もかもを」
 幸恵は手すりに身体をあずけると静かに話し始めた。
「私は『神を覆う者』と言う意味を持つ、天使サキエル…」
 シーツが突然の風になびいた。
「君は、本当に、天使なのかい?」

つづく
SACHiEl | 04:01 AM | comments (0) | trackback (0) |
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