SACHiEl (7/13) 

 1999年第7番目の月/驚愕の大王 天から地に落とされし者/アンゴルモアの大王をよみがえらさんと/その前後を軍神は平和を盾に支配に乗り出す(「諸世紀」第10章72番)

 不思議な夢を見た。
 沢山の天使が舞う空。
 燃え盛る大地。
 絶望。
 闇。
 世界の終末。
 光。
「昨日の幸恵の話のせいだ…」
 翌朝、窓の外を見ると幸恵の姿は無かった。
「今日はいないのか…」
 ちょっとガッカリしたのもつかの間、向こうの方に制服の影が見えた。しかし、それは幸恵では無かった。しかも影は1つではなく次から次へと増えて行く。数えてみると12人。
「マジェスティック・トゥエルブ?」
 なんとなく昨夜観たテレビの内容が頭を過った。勿論全然関係の無い話なんだけれど。
 因みにマジェスティック・トゥエルブとは、あのロズウェル事件直後にトル−マン大統領の命令で設置された国家安全保障局---現在は宇宙問題特別委員会と言う名前となっている---が作成した極秘文書である。勿論この文書の真偽に関しては様々な論議がなされているが、極秘調査開発そして情報作戦の名前の元、MJ−12委員会として12名のメンバーで構成されていた。
 その番組の影響か、黒ずくめの12人を見てそう連想してしまった。
 12人は横に並んでこちらを見ている。年はたぶん幸恵と同じ位で女子ばかり。制服のタイプはセーラーだったりブレザーだったりしていたが、全員真っ黒だった。
 制服の集団って何故か怖い。妙な威圧感がある。
 それにしても何を見ているんだろうか…?
 病院? 俺? 他の誰か?
 やがて1人が指を立て、他の者に指示を出しているような仕草が見えた。
「うわっ!?」
 次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
 と言うのは錯覚で、目の前の窓に突然カラスが数羽飛んで来たのだった。俺は驚いてベッドに倒れてしまった。
 慌てて体勢を戻して窓の外を見ると、12の人影は消えており、上空を十羽程のカラスが向こうへ飛び立っているのが見えた。
「カラス…か。驚いた…。それにしても…」
 俺はカラスに見えているものが、黒い天使では無い事を懸命に確認していた。
「何処に行ったんだ? あの娘達は…」

「どうする?」
 廊下で俺は母の歳に近い看護士と向かい合っていた。午前中の予定だった検査が、病院側の事情で中止になった。その空き時間を外出しても良いと主治医が言っているのだと教えてくれた。外出しても良いと言う事は退院も近い証拠だ。
「それじゃあ、気分転換に散歩でもしてきます」
 よくよく考えたら入院中の外出自体、初めてだった。今まで友人達に見舞いに来て貰ってばかりで、自分から外に出るなんて気付かなかった。しまった。
 ナースステーションに外出許可を提出し、俺は久し振りの外界に飛び出した。
 すっかり季節は夏になっていた。
「そうだよなぁ」
 いつも窓から眺めていた景色も少しずつ変わっていたと振り返った。
 穏やかな風が流れていた。行き交う人々の中を歩くのは少し疲れるが、それでも楽しい。病院近くのコンビニに入って飲み物を買おうと思ったら、中から高校生が出て来た。
「あ」
 そうだ。幸恵の通っている中学校でも見て来よう。あの今どき地味な制服は何処の学校なのかは判っていた。此処からだったら歩いて20分位の筈だった。
「日頃の運動不足解消にはちょうど良いかな」
 緑深い街路樹の通学路を抜けると、F中学校の校舎が見えて来た。授業中の時間なので、グランドには誰の姿もなく、無気味な静けさだった。F中学校の校舎は設計した建築デザイナーの趣味なのか、学校関係者の意向なのかは判らないが、空から見下ろすと校舎の形がアルファベットのFになっているらしい。そもそもそんな所から見る機会が普通はないと思うが、妙なこだわりだ。
 最近は学校も犯罪の対象になる事が多くなって来た。その為、校門もしっかりと閉じられており、外部者は簡単に中に入る事は無理だ。どっちにしても中に入るつもりも無い。
「何か用事ですか?」
 そう思いつつ、中の様子を伺っていた俺に背後から声が掛かった。慌てて振り返ると1人の女子中学生が立っていた。
「え。いや。用事はないんです。知り合いが此処に通っているので、なんとなく近くまで来たついでに見ていただけです」
「そうですか」
 少女は校門に設置してあるインターホンのボタンを押した。
「3年B組の小林幸恵です。風邪をひいたので病院に行って遅刻しました」
「え? 君も幸恵って言うんですか?」
「はい、何か?」
「さっき言った僕の知り合いも幸恵っていう3年生の子だからビックリしちゃった」
 少女は怪訝そうな顔をして俺を見た。
「それってナンパしてるんですか?」
「は?」
「一体どうしたんだね?」
 校舎から50代に見える教師が現われた。「小林君?」
「いえ。この人がなんか変な事言ってるんです」
「いや。僕はそんな。なんでもないです!」
「うちの生徒をどうする気だね? 警察呼ぶよ」
「違います。僕の知り合いが此処に通ってて! 名前はこの子と同じ、幸恵と言う名前で、3年生なんです! それで、」
 俺は大慌てだった。その前を教師が開けた門を通る為、女生徒が通り過ぎて行った。
「何と言う名字だね? 君のお知り合いと言う生徒は?」
「あ。…そう言えば、聞いた事ないです」
「何を言っているのかさっぱり判らないな、君は。とっとと行ってくれ。しつこいと本当に警察を呼ぶよ」
「あ。じゃじゃ。し、失礼しました!」
 俺は走り出した。と、同時に自分の失態を恥じた。

つづく
SACHiEl | 12:32 PM | comments (x) | trackback (0) |
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